【本の紹介】「朽ちるマンション 老いる住民」

本の紹介

朽ちるマンション 老いる住民 (朝日新書894) [ 朝日新聞取材班 ]

価格:891円
(2023/3/4 18:16時点)

本書は、朝日新聞デジタルでの連載などに加筆修正を行い再構成したものである。

 マンションの「建物の老朽化」とマンションに住む「住民の高齢化」の両面から、築年数がある程度経過したマンションでは、どこでも起こりうる諸問題を扱っている。

 例えば、管理会社から突然、管理契約の更新を拒否される問題、大規模修繕を管理会社任せにし、割高な工事費がかかってしまったという問題、老朽化に対応できる修繕費がないという問題、クルマを持たない住民の増加により機械式駐車場を持て余してしまった問題。
 オートロックなどの安全性やプライバシーが守られるという利点がかえって認知症の住民を住みにくくしてしまった、高齢化による役員の担い手不足に加え、役員の重すぎる負担、理事会での積極的発言にも反応が鈍いなど、「マンションをよくする」との意識を他の役員と共有できないなど。

 なぜ、このような問題が生じるのかについて、本書は、これらのマンションを巡る問題は、日本の住宅政策の問題と重なるのではないかと指摘する。「戦後、急増した人口は都市部へと流入し、その住まいをどう確保するかが急務」となり、「限られた土地を有効に生かすために、縦に空間を広げることができる団地やマンションといった居住スタイルが根付いていった」。続くバブル期には都心部の地価が高騰したことで、郊外への流出が進み、マンションは郊外でも建築されるようになり、その後、規制緩和が進んで、タワーマンションの建築により「都心回帰」が進む。このような流れに加えて、「日本では一貫して、『新築重視』の政策が採られ」、人口減少の局面に入り、「とりあえず住宅を確保する」時代は終わったにも関わらず、「新しく作って、売る」ことが優先され続けてきた。こうしたことが、マンションの「勝ち組」「負け組」を作り、マンションが淘汰されることにつながると見る。

 一方で、「マンションは一戸建てを建てるまでの『仮住まい』という位置づけ」でもなくなり、「ついのすみか」として選択されるようになった。1980年度には、マンション区分所有者のうち6割近かった「住み替え」を考えている人は、近年では2割にも満たず、「ついのすみか」として永住を考える人は6割を超えるまでに増えたという。このことはマンションの住民の高齢化につながっていく。

 マンションの淘汰により管理不全のマンションが増加することや高齢化がマンションの管理に及ぼす問題について、政治や行政の視点を持つことで、「解決に向けた道筋も考え方も変わっていくはずだ」と指摘する。

 そうした指摘の一方で、マンション内のコミュニティーを再生する試みを通じて、これらの諸問題を解決するケースも紹介。

 例えば、京都市内にある1983年に建てられた183戸のマンション。築30年を前にした2回目の大規模改修を実施した頃に、「新たに若い住民も入ってくる『循環型』マンションをつくることができれば、マンションが活性化して資産価値も高められるのでは」と考え、管理規約を改定し、「ここで子どもを育てたいと思えること」を目指すと明記。管理組合が「子育て支援」を打ち出し、もともとは店舗だったスペースを、法人化した管理組合で買取り、ガラス張りで開放的な交流室に作り替え、コミュニティーづくりの拠点にしているという。交流室は子どもたちの放課後を過ごす場として利用したり、月1回の「カフェ」を開催したりするなどしているが、子どもたちだけではなく、お年寄りも集まり世代間の交流も増えた。また、管理組合は、通勤や通学、子どもの送り迎えなどで自由に使えるシェア自転車も用意している。こうした取り組みは、すべて住民のアイデアで実現しているといい、高経年のマンションであるにもかかわらず、現在、空き部屋はほとんどないという。

 本書は、いわゆるハウツー本ではなく、明快な解決方法を示すものではないが、様々な切り口からマンションの老朽化と高齢化の問題を捉えようと試みており、それらに止まらず、マンション内のコミュニティーのあり方にも言及することで、一定の「解」を示そうとしているようにも思われる。現在、マンションの課題に直面している方々に、是非、一読をお勧めしたい。

朽ちるマンション 老いる住民 (朝日新書)

(文責:中野里香)