ビラの配布と名誉毀損

区分所有者

Q. 理事長が大規模修繕工事の請負業者からバックペイを受け取っているようです。これを組合員に知らせるために、ビラを各戸に配布しようと思いますが、問題はありますか。

A. 名誉毀損行為となる可能性があります。
 その場合、刑事事件として処罰の対象となる可能性や、民事事件として損害賠償責任等を負う可能性がありますので、慎重に行動することをお勧めします。

 <解説>

1 表現の自由と名誉毀損 

 管理組合は、多数決を構成原理とする民主主義団体であり、民主主義の根幹ともいえる表現の自由が保障されるべきは当然です。
 しかし、表現の自由も他者の人権との関係においては一定の制約を受けるものであり、他者の名誉(社会的評価)を毀損する(低下させる)ことは許されません。

 ご質問のように、「理事長がバックペイを受け取っている」という事実を、ビラを配布することによって公表すれば、当該理事長は、管理組合から大規模改修工事の請負業者に対して過大な費用を支払わせて、それをバックペイとして受けることにより、管理組合に損をさせて、不当な利得を図る人物であることを知らしめ、その社会的評価を低下させることになります。
 そのため、「公然(不特定または多数の者に対して)と事実を摘示し、他人の名誉を毀損した」という刑法第230条第1項の名誉棄損罪の構成要件に該当する行為となってしまいます。

2 「事実」を公表しても、違法性や故意がない場合

    一方で、刑法第230条の2第1項は、

① 公表した事実が「公共の利害に関する事実」(事実の公共性)であり、
② 公表の「目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合」(目的の公益性)であり、
③ 公表した事実が真実であることの証明があった場合

には違法性が阻却されると規定しています。

 また、判例上、①事実の公共性、②目的の公益性、③´公表した事実が真実であることの証明ができない場合でも、真実であると誤信し、そう誤信したことについて確実な資料、根拠に照らして相当の理由があるときは、故意(過失)を阻却するとされています。

 民事上の不法行為の成否についても同様に考えられています。

3 ペイバックを受けているという事実の公表は違法性や故意を阻却するか? 

 理事長が大規模改修工事の請負業者からバックペイを受けているという事実は、管理組合の重要な資産が理事長個人に流れているということであり、①管理組合という小社会における「公共の利害に関する事実」に該当するものと考えられます。

 そして、②管理組合の重要な資産の流出を防ぎ、あるいは流出した資産の回復を図るために構成員である区分所有者にその事実を知らしめ、適正な管理組合の運営を図ろうとすることを目的としていると考えられますので、目的の公共性も認められるものと解されます。

 一方、③バックペイを受け取っているという事実が真実であることの証明は可能なのでしょうか? 
 あるいは、③´仮に真実ではなかったことが後日判明した場合、真実であると誤信したことについて確実な資料、根拠に照らして相当の理由があると認められるでしょうか?

 ③真実性の証明できるか、③´真実であることを誤信したことについての相当性が認められなければ、刑法上の名誉毀損罪が成立し、刑法上の犯罪として処罰されることもあり得ます。また、民事上の不法行為として損害賠償責任を負担する可能性もあります。

 ですから、ビラを配布する前に、ビラに記載した内容について、③真実性の証明が可能か、③´仮に真実ではなかったことが後日判明した場合、真実であると誤信したことについて確実な資料、根拠に照らして相当の理由があると認められるかを、今一度、慎重に確認し直すことをお勧めします。

 確実な資料や根拠もなく、単に思い込みをしているだけの場合や他者の話やうわさを鵜呑みにしていているような場合には、重大な法律問題が生じる可能性がありますので、ビラの配布は踏みとどまったほうが良いでしょう。

 また、事実の公共性が認められるためには、公表する相手方の範囲も重要な要素となりますので、配布する範囲や方法についても慎重に検討しなければならないでしょう。例えば、区分所有者でない人たちが容易に目にすることのできるような掲示板への掲示等は避けるべきでしょう。

以上