Q. 私の夫は理事ですが、理事会の日時に旅行に出かける予定で、出席できません。私が代理人となって理事会に出席することは可能でしょうか。
A. 管理規約の定めによるものと考えられます。
<解説>
1 代理出席についての考え方の基本~民法第104条(復代理)の類推適用等
管理組合の理事は、管理組合と委任あるいはこれに類似した契約関係にあると考えられます。そして、理事会出席やその議決権行使は、対外的な法律行為ではなく、内部的事務ですので、民法上の「代理」ではありませんが、任された権限を更に他者に任せるという点では、復代理に関する民法第104条の規定と状況が似ていますので、同条が類推適用あるいは準用されることになると考えられます。
民法第104条は、「委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。」と定められています(注1)。設問においては、管理組合が本人、夫が代理人的な立場、妻は夫から選任された復代理人的な立場にあるとみることができます。
民法第104条からすれば、「本人の許諾を得たとき」か「やむを得ない事由があるとき」に該当すれば、妻の代理出席を可能とする解釈が成り立ち得ることになります。
(注1)復代理とは、代理人が自己の名において選任した他人が、直接に本人を代理して法律行為をすることをいい、その他人を復代理人といいます。
2 管理規約に代理出席に関する規定がある場合
管理規約において、「理事は、理事会への出席について、その配偶者に限り、代理出席させることができる。」と定めていた場合はどうでしょうか?
このように、代理出席ができる場合について限定を付さずに、これを容認する規定があれば、管理組合という「本人の許諾を得たとき」と同視することができるのではないかと思います。
そのため、本設問の場合(旅行)でも、妻の代理出席は認められます。
3 管理規約に代理出席に関する規定がない場合
(1) 管理規約に代理出席に関する規定がない場合、民法第104条の「本人の許諾を得たとき」に該当すると判断することは難しいと考えられます。
では、民法第104条の「やむを得ない事由があるとき」に該当するでしょうか?
「やむを得ない事由」というのは、一般的には、代理行為をすることについて支障があり、本人の許諾を得る暇がない場合をいうとされています。これは、民法第104条が委任による代理の場合には、本人と代理人との信頼関係に基づいていることに加えて、代理人は自らの意思で辞任することができますので、原則として復代理人の選任を認めず、例外的に「やむを得ない事由」がある場合に復代理を認めるとの趣旨です。そうであるならば、多くの方が「それなら理事会に出席できなくても仕方がない」と納得し得る事情がある場合に限定して解釈すべきだと考えられます。
設問の「理事会の日に夫が旅行に行く」というのは、「出席できなくても仕方がない」とまでは言えず、「やむを得ない事由があるとき」には該当しないのではないかと思います。
(2) なお、「やむを得ない事由があるとき」に該当するような場合でも、私的自治の原則からすれば、民法第104条の類推適用等を排除する合意をすることも有効であると考えられます。そうすると、(管理規約に規定がない以上)管理組合と理事との間の委任契約あるいはこれに類似する法律関係においては、民法第104条の類推適用等を排除する趣旨が含まれているとして、やはり、代理出席は認められないという解釈も成り立ち得ます。
ですから、代理出席を認める場合には、管理規約に明確に定めておくほうがよいでしょう。
4 標準管理規約第53条関係のコメントについて
ところで、理事の代理出席に関する標準管理規約(単棟型)第53条関係のコメントは、「理事に事故があり、理事会に出席できない場合は、その配偶者又は一親等内の親族に限り、代理出席を認める旨を定める規約の規定は有効であると解されるが、あくまで、やむを得ない場合の代理出席を認めるものであることに留意が必要である。」としています。
このコメントから、「理事に事故があり、理事会に出席できない場合」を「やむを得ない事由があるとき」と同視して、代理出席は、「やむを得ない事由があるとき」に該当する場合でなければならず、これ以外の場合には代理出席を認める管理規約を定めても無効となるとの解釈がとられることがあります。
確かに、上記コメントの記載はそのような誤解を生む記載になっていると思います。
しかし、既に述べましたように、民法第104条は復代理を認める場合について、「やむを得ない事由があるとき」OR「本人の許諾を得たとき」としているにすぎません。「やむを得ない事由があるとき」AND「本人の許諾を得たとき」の場合に限定する必要はないはずです。
そのため、管理規約の定めにより代理出席を認める旨の規定があれば、「本人の許諾を得たとき」に該当し、これに加えて、管理規約において「やむを得ない事由」をあえて定める必要まではないものと考えることも十分可能です。
5 管理規約の定め方
第53条関係のコメントにあるような「理事に事故があり、理事会に出席できない場合」としてしまうと、そもそも「理事に事故があり」とはどのような場合を意味するのか、解釈上の疑義が生じます。その文言から形式的に解釈すると、「事故」=「意図せず、予期せず発生する悪い出来事」という極めて限られた場合に限定されてしまい、ほとんどの場合、代理出席が許されなくなってしまいます。そうなると、代理出席の要件を充たさない代理人の参加によってなされた理事会決議が事後的に無効になるなどという事態も招きかねず、理事会運営に混乱をもたらすおそれがないとは言えません。
このような混乱を避けるため、管理規約においては、何ら限定することなく代理出席できると定めても有効であると解釈することも可能であると考えます。
一方で、全く限定を付すことなく代理出席を認めるとなると、理事の責任の所在も曖昧になり、無責任な理事会の運営がなされ、マンションの管理不全を招く結果にもなりかねませんので、悩ましいところです。
そのため、代理出席できる場合を、「傷病または仕事上あるいは私生活上の都合により出席できない場合」等とより広く一応の限定を付した上で、より緩やかな解釈が成り立つように定め、委任状に出席できない理由を記載させるような運用も考えられると思います。
もちろん、「私のマンションでは理事は個人の資質と能力等に着目して選任されている」という場合には、上記のように広く代理出席を認める規定を置くべきではありませんので、ご留意下さい。
<チェック!ちょっと深掘り>
管理組合法人の理事について定める区分所有法第49条の3は、「理事は、規約又は集会の決議によって禁止されていないときに限り、特定の行為の代理を他人に委任することができる。」と規定しています。
この規定は、理事の特定行為についての代理は認めるが、包括的な行為の委任は禁止するものであり、理事会に出席して意見を述べ、議決権を行使することは特定行為の代理の範疇を超え、包括的な行為の委任に該当するため、理事会への代理出席は、この規定に違反することにはならないかという疑問が生じます。
実際に、管理規約において「理事に事故があり、理事会に出席できないときは、その配偶者又は一親等の親族に限り、その理事を代理して理事会に出席させることができる。」と定めていた管理組合法人の理事会に、理事の代理人が出席して議決された理事会決議の有効無効が争われた事案(実際には、区分所有法第49条の3と同旨で、当時は区分所有法が準用していた旧民法55条の解釈が問題となった事案)がありました(最小2判平成2年11月26日)。
この事案で、最高裁判所は、当時、区分所有法が準用していた旧民法55条の「理事」は、「代表権のある理事」を指し、管理組合法人が任意に、代表権のない理事を含めて複数の理事を定め、理事会という機関を創設した場合の理事会の出席及び議決権の行使について直接規定するものではない旨判示しました。
従って、管理規約において理事会への代理出席を認める規定を置いたとしても、区分所有法第49条の3に反することにはなりません。
そして、上記最高裁判決は、複数の理事を置くか否か、代表権のない理事を置くか否か、複数の理事を置いた場合の意思決定を理事会によって行うか否か、更には、理事会を設けた場合の出席の要否及び議決権の行使の方法については、法は、これを自治的規範である規約に委ねているものと解するのが相当であるとし、規約において、理事会への代理出席の可否、その要件及び代理人の範囲を定めることも可能というべきである、とも判示しています。
なお、この最高裁判決の事例で問題となった管理規約においては、「理事に事故があり、理事会に出席できないときは、その配偶者又は一親等の親族に限り、その理事を代理して理事会に出席させることができる。」と定められていました。あくまでも、最高裁は、上記管理規約を有効と判断しただけで、これと同じ内容でなければ無効であると判断したわけではありません。しかし、上述の第53条関係のコメントなどから、上記管理規約と同じ内容でなければ有効ではないとの誤解が散見されるので、注意が必要です。
<チェック!更に深掘り>
管理組合の理事会とよく似ているものとして、株式会社の取締役会があります。取締役会の場合、取締役本人が出席せず、代理出席させて議決権を行使するということが許されるとは考えられていません。
これと同様に考えれば、理事会への代理出席も認められないのではないか、理事会と取締役会で何が違うのだろうと疑問が生じます。
取締役は、会社経営の観点から、その個人的な資質や能力等に着目されて選任されています。そのため、その資質等を駆使して、取締役会を通じて、会社の業務執行を決定し、取締役の職務の執行を監督する立場にあるわけですから、取締役会での議決権行使は会社の利益のために会社から委任された事務そのものであり、これを第三者に委ねることは、委任の趣旨に反します。
しかし、輪番制によって理事に選任されるような場合には、個人的な資質や能力等によって選任されているわけではありません。
そこに大きな違いがあると考えることができますので、管理組合の理事会と会社の取締役会を同視することはできません。
但し、管理組合の理事をその個人的な資質や能力等に着目して選任しているという場合もあります。特に第三者専門職が理事を選任された場合には、株式会社の取締役と同様に代理出席は認められないでしょう。

