Q. 理事長が、大規模修繕工事の工事業者からキックバック(謝礼金)を受け取ることを目的として工事請負契約を締結し、これにより過大な請負代金を支払い、キックバックを受け取ったことを認めて、謝罪文を自筆で作成して、理事会に提出してきました。
これに対して、管理組合としては、刑事告訴・告発を検討していますが、どのような罪になるでしょうか。
A. 刑法第247条の背任罪に該当するものと考えられます。
<解説>
理事長が大規模修繕工事の工事業者からキックバックを受け取るということは、そのキックバック分について、管理組合法人あるいは管理組合が本来は支払う必要のなかった金銭を工事代金に上乗せして支払い、その分損害が発生したとみることができます。そして、理事長は、それだけ自らが利得しているということになります。
このように理事長が管理組合等に損害を発生させる行為は、犯罪行為とならないでしょうか。
刑法第247条(背任罪)は、「他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と規定しています。
背任が成立するための構成要件は、①他人のために事務を処理する者であること、②自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的があること、③その任務に背く行為をしたこと、④③の行為によって本人に財産上の損害を加えたことです。
以下では、理事長の行為が上記の①~④に該当するかどうかについて検討します。
まず、①についてですが、「他人」とは人(自然人)のほか法人も含まれるとされているので、管理組合法人が「他人」に該当することは問題ありません。また、法人化していない管理組合のように権利能力なき社団と言われるような団体も「他人」に含まれると解されています。
そして、理事長と管理組合法人あるいは管理組合とは、委任契約あるいは委任契約類似の法律関係にあると考えられていますので、このような法律関係に基づいて、理事長は管理組合法人あるいは管理組合という「他人のためにその事務を処理する者」に該当します。
②の目的についても、理事長はキックバックを受けることを目的としていたわけですから、自らの利益を図る目的があったことは明らかと言えます。
③の「任務に背く行為」の、「任務」とは事務処理者として当該具体的な事情の下で当然になすべきものと法的に期待される行為を意味し、「背く」とは、「他人」との信頼関係に違背することと解されています。
理事長は、管理組合法人あるいは管理組合から、その利益のために行動し、その利益を犠牲にして自らの利益を図ることがないようにとの法的期待が当然に課されているので、その法的期待に従わず、キックバックを受領すれば、管理組合等との間の信頼関係に違背していることも明らかと言えます。
そして、③の任務違背行為によって、本来は支払う必要のなかった金銭を工事代金に上乗せして支払い、管理組合法人あるいは管理組合に損害が発生していますので、④も充足するということになります。
従って、背任罪が成立することになると考えられます。
<チェック!ちょっと深掘り>
理事長に背任罪が成立することは上記のとおりですが、キックバックを支払った工事業者にはどのような犯罪が成立するのでしょうか?
背任罪は、「他人のために事務を処理する者」のみが犯しうる犯罪(真正身分犯)とされています。ですから、一見すると、管理組合法人あるいは管理組合の「事務を処理する者」には該当しない工事業者に共犯は成立しないのではないかとの疑問も生じます。
しかし、刑法第65条第1項は、「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。」と規定していますので、例えば、工事業者の方からキックバックを支払うことを積極的に働きかけて請負契約締結に至ったようなケースなどでは、共同正犯(2人以上の者が共同して犯罪を実行する場合で、全員が正犯として罰せられる)が成立する可能性もあります。このようなケースでない場合でも、教唆犯(犯罪を行うようにそそのかす、仕向ける罪)や幇助犯(犯罪を手助けする、犯罪行為を容易にする罪)が成立する可能性も十分にあるでしょう。

