Q. 大規模修繕工事の方法や業者の選定について、理事会の方針と違う意見を持つ特定の区分所有者が、自らの意見を記載したビラを各戸の郵便受けに投函しました。混乱を招きますので、ビラの投函をやめさせようと思うのですが、総会決議をすれば、禁止することはできますか。
A.禁止することはできません。
<解説>
自らの意見を自由に表明することは、「表現の自由」として憲法で保障されています。
憲法の保障する表現の自由は、民主主義の根幹ともいえる重要な人権であり、それなくして、民主主義団体の自治は成立しないと言っても良いでしょう。民主主義と独裁主義の重要な相違は表現の自由が保障されているか否かにあると言っても過言ではありません。
管理組合は、多数決を構成原理とする(主としてマンションの共用部分の管理等に関する事項について、区分所有者の多数決によって、これを決する)団体であり、民主主義を基礎とする団体です。その運営に当たっては、構成員である区分所有者が自由に意見を述べ合うことができなければなりません。
ビラの配布という表現方法は、民主主義社会の成立および発展において、歴史的に重要な役割を担ってきたものであり、現代でも最も有効な表現方法の一つであることは間違いありません。
一方で、ビラが投函されることによって不快な思いをする方々もおられるでしょうし、投函されたビラがゴミとなって散乱することもあるでしょう。
しかし、ビラの投函が不快であれば、読まずに廃棄することも自由ですし、ゴミとして散乱するというのであれば、清掃の機会を増やす等で対処できますから、このような理由で、ビラの投函を一律に禁止することは行き過ぎであるというべきです。
ビラの配布・投函を禁じることで、却って、適正な意見が封じられ、これにより、マンション管理の適正な運営が妨げられることにつながりかねません。
例えば、理事会が規模改修工事の業者の選定等において不当な選択をし、管理組合の重要な資産が流出しているような事実がある場合にも、ビラ投函による意見が封じられていれば、その事実を他の区分所有者へ知らしめる重要な手段が奪われることになるのです。それだけではなく、そのような不正な事実を知らない区分所有者の知る権利をも侵害することにつながります。
マンション管理の適正な運営がなされるためには、反対意見を封殺することではなく、多種多様な意見を自由に発信する機会が保障され、その中で、どの意見に賛同すべきかを各区分所有者が真剣に考えることが最も重要なのです。
このように、マンション管理の適正な運営のためには、表現の自由が保障されることが極めて重要ですので、仮に、総会でマンション管理に関する意見を記載したビラの投函を禁止する議案を決議したとしても、憲法第21条第1項の保障する表現の自由からすれば、そのような決議は公序良俗に反するものとして無効と判断されるものと思料されます。
<チェック!ちょっと深掘り>
管理組合の中には、表現の自由を制限することはできないと考えて、ビラの配布や投函を一律に禁止する代わりに、「投書箱」や「目安箱」という名称の箱を共用部に設けて、各区分所有者が、意見を記載した文書をそこに投函できるようにし、投函された文書については、理事会でこれらを要約し、「理事会だより」に掲載するという方式(以下「投書箱方式」といいます。)をとっているところもあるようです。
投書箱方式をとれば、ビラの配布や投函を一律に禁止することは可能となるのでしょうか?
確かに、この方式は表現の自由を完全に封殺するものではありません。
しかし、表現の自由は、いつ表現をするか、どのような言葉を用いるか、どのように論理立てするか等についても保障を求められるものであり、理事会による要約文の配布では、上述のような要請が充たされず、表現の自由が保障されていると評価できるものではないでしょう。
ですから、投書箱方式をとったとしても、表現の自由についての過度の制限として、やはり公序良俗に反して許されないのではないものと思料致します。
但し、管理組合が、投書箱等に投函された文書を、そのままコピーして、できる限り速やかに全区分所有者に配布するというのであれば、過度の制限とまでは言えない可能性もあるものと考えられます。

