管理費・修繕積立金の長期滞納者の掲示

管理費・修繕積立金

Q. 管理費・修繕積立金の長期滞納者がいます。何回、督促をしても支払ってくれません。マンションの掲示板に氏名、号室、滞納額を掲示しても良いでしょうか。

A. 名誉毀損行為となる可能性がありますので、マンションの掲示板に掲示することはやめるべきでしょう。
 名誉毀損行為となる場合、刑事事件としても処罰の対象となり、民事事件としては損害賠償責任を負う可能性があります。

<解説>

 管理費・積立金の長期滞納者がいる場合、マンションの掲示板にその滞納者の氏名、号室、滞納額を掲示して、心理的な影響を与えることにより滞納を解消したいと考え、その可否の相談を受けることがあります。
 このようなことは許されるのでしょうか。

刑事責任~名誉毀損罪の成立

 長期滞納の事実の公表は、当該滞納者が「決められた債務を支払わない人物」であるとして社会的評価の低下を来す、すなわち当該滞納者の名誉を毀損するものです。そして、マンションの掲示板にその滞納者の氏名、号室、滞納額を掲示する行為は、「公然(不特定または多数の者に対して)と事実を摘示し、他人の名誉を毀損した」という刑法第230条第1項の名誉棄損罪の構成要件に該当する行為となってしまいます。

 ところで、刑法をよくご存じの方の中には、長期滞納の事実は真実であるから、真実性の証明をすれば違法性が阻却され、名誉毀損罪は成立しないと考えられるかもしれません。
 しかし、掲示した事実が真実であることを証明しただけで違法性が阻却されるわけではなく、公表した事実が「公共の利害に関する事実」(事実の公共性)であり、公表の「目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合」(目的の公益性)という2つの要件も充足する必要があります。

 事実の公共性にいう「公共」とは、必ずしも国家または社会全体である必要はなく、管理組合のような小範囲の社会に関するものであってもよいと考えられています。管理費・積立金の滞納の問題は、管理組合という小範囲の社会の利害に関する事実であることは間違いありません。しかし、事実の公共性は、あくまでも、その小範囲の社会の構成員との関係で認められるものなので、管理組合の構成員である区分所有者以外の無関係な者に対しても公表するのであれば、事実の公共性は認められなくなるものと考えられます。

 また、目的の公益性も必要となりますが、管理組合の構成員である区分所有者以外の無関係な者に対しても広く公表するようなことをすれば、制裁を目的とするものとして、目的の公益性が否定される可能性があります。

民事責任~不法行為に基づく損害賠償

 事実を公表する場合の不法行為の成否については刑法の名誉毀損罪の要件とほぼ同様であると考えられていますので、民事上も名誉毀損行為は不法行為に該当するとして、損害賠償責任を負担しなければならない場合があります。

結 論

 マンションの掲示板に氏名、号室、滞納額を掲示すれば、管理組合を構成する区分所有者の範囲を超えて、例えばマンションに居住している賃借人、宅配業者、訪問者等の目に触れることになりますので、名誉毀損罪として処罰の対象となる可能性も生じますし、不法行為として損害賠償責任を負わなければならない可能性も生じてしまいます。

 また、滞納者が滞納している原因にもよりますが、マンションの掲示板に掲示することにより、滞納が解消される可能性は必ずしも高いと思われませんし、却って反発を買い、滞納問題がこじれる可能性すら否定できません。

 ですから、マンションの掲示板に氏名、号室、滞納額を掲示することは差し控えるべきでしょう。

<チェック!ちょっと深掘り>

 設問のような事案について、名誉毀損行為として損害賠償責任の可否について判断した裁判例を紹介します。

 東京地裁平成11年12月24日判決は、団地管理組合が成立する約770棟の一戸建て建物が建築されている別荘地において、管理費等の長期滞納者の氏名等を立看板に記載して外部の通行人等が出入りすることが可能な道路沿いに設置したことが名誉毀損行為として不法行為に該当し、損害賠償が認められるかが争われた事案です。

 判決では「立看板の設置に至るまでの経緯、その文言、内容、設置状況、設置の動機、目的、設置する際に採られた手続等に照らすと、本件立看板の設置行為は、管理費未納会員に対する措置としてやや穏当さを欠くきらいがないではないが、本件別荘地の管理のために必要な管理費の支払を長期間怠る原告らに対し、会則を適用してサービスの提供を中止する旨伝え、ひいては管理費の支払を促す正当な管理行為の範囲を著しく逸脱したものとはいえず、原告らの名誉を害する不法行為にはならないものと解するのが相当である。」として、損害賠償責任を否定しています。

  この裁判例は、長期滞納者らの氏名等公表したことが外形的には名誉を毀損することを前提として、違法性までは認められないと判断したものと解されます。そして、違法性が認められない理由について、滞納の事実が真実であることに加え、「制裁的効果はあるとしても、ことさら不当な目的をもって設置したものとまではいえない」として「目的の公益性」が認められるような判断をしたようですが、外部の通行人等の目に触れる道路に立看板を設置したにも拘らず、なぜ、「事実の公共性」が認められるのかについては全く触れておらず、その理由付けには歯切れの悪さを感じざるを得ません。

 非マスメディア型名誉毀損に基づく損害賠償請求事件においては、マスメディア型の事件とは異なり、不法行為である以上、損害賠償請求等が認められるためには、当該名誉毀損となりうる行為自体に、積極的な違法性が認められなければならないとする考え方があります。上記裁判例はこの考え方と同様に、正当な管理行為の範囲を著しく逸脱して初めて違法となるとして、積極的な違法性が認められて初めて不法行為が成立するとの立場に立っているのではないかと思料されます。

 しかし、このような考え方を完全に否定し、非マスメディア型の事件もマスメディア型の事件と同様に判断すべきであるとする東京高裁平成30年10月17日判決も存在しますので、正当な管理行為の範囲を著しく逸脱していなければ不法行為には該当しないとして、安易にそれを前提に行動することは、大きな責任を負担しなければならなくなる可能性がありますので、お勧めすることはできません。