監事の議案提出権

監事

Q. 監事招集の臨時総会で、監事が理事の解任や新たな理事の選任についての議案を提出して決議に付することはできるのでしょうか。

A. 監事には、総会の議案を提出する権限はありませんので、できないと考えます。

<解説>

【監事の職務権限とは】

 法律相談を受けていると、監事が臨時総会を招集して、理事の不正を報告し、そのまま理事の解任決議と新たな理事の選任決議をしたなどという話を聞くことがあります。

 標準管理規約(単棟型)第41条で規定する監事の職務権限は、「業務監査」と「会計監査」、「それに基づく理事会・総会での不正の報告及びその報告のための理事会・総会招集権限」に限られています。

 業務監査とは管理組合の業務が法令、管理規約及び事業計画に従い適正に行われているかを監査するということであり、会計監査は収支計算書及び貸借対照表が管理組合の収支及び財産の状況を正しく反映しているかを監査することです。

 ですから、総会に議案を提出することは、業務監査、会計監査、不正の報告及びそのための総会の招集のいずれにも含まれませんので、監事に議案提出権はないということになると考えられます。

 監事の招集する臨時総会は、管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があるときに、これを報告し、組合員に不正を正す機会を提供することを前提とするものです。そのため、臨時総会における上述のような監事による報告の結果、現理事の解任や新たな理事の選任をすべきであるということになれば、改めて、これらを議案とする臨時総会の招集手続をとった上で、決議することになります。

【管理規約で定める監事の議案提出権】

 もっとも、2度も臨時総会を開催することは非常に煩雑であることから、理事の解任や新たな理事の選任といった「特定の議案」について管理規約で監事に議案提出権を付与することはできないでしょうか。

 この問題は、極めて難しい問題であり、解釈が分かれる可能性はありますが、管理規約で定めれば可能であると考えることもできると思われます。

 そのように考える理由は以下のとおりです。

 管理組合法人においては、監事は必要的機関として、区分所有法第50条に規定されていますが、その職務権限を定める3項は強行法規(異なる定めを許さず、定めても無効となる規定)とは考えられていませんので、監事にどのような権限を付与するかは、原則として、管理組合法人の自治に委ねられていると考えられます。

 これに対して、法人格を有しない管理組合においては、監事は必要的機関ではなく、監事という機関を置くか否かについては、その管理組合の意思決定(自治)に委ねられています(なお、後述するとおり、標準管理規約第43条の規定は、法人格のない管理組合についてのものですがが、これは区分所有法第50条の規定をスライドしたものです)。

 以上のように、「自治に委ねられている」のだとすれば、管理規約で定めれば、監事に議案提出権を認めることができるようにも考えられます。

 しかし、他方で、監事は本来、業務執行を監督する立場であり、自ら業務執行をすることは予定されていません。議案提出権も業務執行権の一種ですから、自ら業務執行し、その監査を行うということなれば、自己監査を認めることになり、監事の地位や存在意義とも矛盾が生じてしまいます。

 このような2つの側面を考慮する必要があることから、 仮に、監事に対して議案提出権を認めるとしても、どの範囲で議案提出権を認めるかについては、慎重に検討する必要があるというべきであり、自己監査を認めるような広く一般的な議案提出権は認めるべきではなく、「特定の議案」に限定して議案提出権を認めるのが適切だと考えられます。

<チェック!ちょっと深掘り>

 上記の解説とは異なり、監事の議案提出権を肯定する裁判例や、肯定することを前提とした下級審における裁判例が数件存在します。

 これらはいずれも監事に関する標準管理規約の規定と同様の管理規約を設定している管理組合あるいは管理組合法人に関するもので、監事の招集した報告集会あるいは臨時総会において役員を解任し、新たな役員を選任する決議がなされ、その有効無効が争われた事案です。

 上記裁判例の中には、そもそも監事に議案提出権が認められるのかという点が争点とならなかったものも存在しますが、明示的に監事の議案提出権を認めたものも存在します。
 この裁判例は、監事の議案提出権を認める理由として、
①管理規約において、「監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるときは、臨時総会を招集することができる。」と規定されており、明示的に監事による臨時総会招集は報告のために限定されていないこと、
②不正が認められる場合には喫緊の対応策を講じなければならないこと、
が挙げられています。

「監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるときは、臨時総会を招集することができる。」という規定は標準管理規約第41条3項(現行)と同じ内容です。

 標準管理規約は法人格のない管理組合における管理規約モデルとして作られましたが、そもそも、区分所有法は法人格のない管理組合においては監事を必要的機関とは定めていません。そこで、監事という機関を置くに当たり、管理規約で、その地位や職務権限を定める必要があり、その旨の規定が設けられました。

ところで、管理組合法人の監事の職務権限については、区分所有法第50条3項(旧民法59条)は次のように定めています。

一、管理組合法人の財産の状況を監査すること。
二、理事の業務の執行の状況を監査すること。
三、財産の状況又は業務の施行について、法令若しくは規約に違反し、又は著しく不当な事項があるときは、集会に報告すること。
四、前号の報告をするため必要があるときは、集会を招集すること。

 法人格のない管理組合における管理規約モデルとして作られた標準管理規約は、この区分所有法第50条3項(当時は同内容の旧民法59条を準用していました)の規定と同趣旨のものとして(特に同条項と趣旨に違いがあるとの説明はなされていませんので、同趣旨であることは明らかであると思料します。)、第41条に次のような規定を置いたわけです(平成28年の改正で下記の2項は3項に改められています)。

1 監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況を監査し、その結果を総会に報告しなければならない。
2 監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるときは、臨時総会を招集することができる。

すなわち、

区分所有法第50条3項一号から三号の規定→標準管理規約第41条1項に集約

区分所有法第50条3項四号の規定    →標準管理規約第41条2項(現行3項)

という形で規定したわけです。

 そのため、標準管理規約第41条2項(現行3項)の規定は、区分所有法第50条3項四号の規定と同様に、「報告」のための総会招集権限であると解釈することが合理的と言えるでしょう。

 そのような解釈を前提とするならば、監事の議案提出権を認める裁判例の理由①は解釈を誤っているものと考えざるを得ません。
 また、理由②は喫緊の対応策を講じなければならないという必要性を根拠に議案提出権を認めるものですが、必要性が認められるから、業務執行権のない監事にその地位や職務権限と矛盾した議案提出権を認めるというのは論理の飛躍であり、根拠とはなり難いというべきでしょう。

 以上から、監事の議案提出権を認める下級審裁判例は、管理規約第41条3項の解釈として正しいといえるのか、疑問です。

 なお、監事に議案提出権があることを前提として安易な決議をしてしまうと、後日、無効と判断される可能性があるとの点も懸念されるところです。無効と判断されれば、その決議を前提とする業務執行の効力も、のちにことごとく覆るなど、極めて大きな混乱を招く可能性がありますので、注意が必要でしょう。